大判例

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大阪高等裁判所 昭和33年(ラ)40号 決定 1958年2月26日

抗告人 田中栄三(仮名)

主文

本件抗告はこれを棄却する。

理由

抗告理由は別紙に記載する通りであつて、抗告人が小学校五年生の時から級友間に被露して中学校三年生の現在まで博庸という通称を使用して来たことは記録中の証明書(二通)郵便はがき(七通)賞状(五通)によつて認めうるところであり、その通称を用いるに至つた動機が仮に抗告人主張のような事情にあるとしても、その通称は小中学校時代の四、五年用いられたに過ぎず、未だ社会的に抗告人を表示する名として深いつながりや意義をもつものとなつたとは思われないし、その動機の如きも抗告人の小供心に不快を感ぜしめたというほどのことであつて、抗告人が漸く成長して来た現在ではも早心にかけるに足りないたわいもないことであり、本来「栄三」という本名自体の中にはこれを改めるべき正当事由を発見できない上に通称博庸(ひろのぶ)はやや読みにくく、ことさらにそのような名に変更するにも当らないと考えられ、結局本件名の変更許可申請は正当事由を欠くから、これを却下した原審判は相当で本件抗告は理由がないので、主文の通り決定する。

(裁判長判事 大野英稲 判事 石井末一 判事 喜多勝)

抗告理由

一、即時抗告人は原審判理由中で述べられた如く戸籍上の名は「栄三」であるが、小学校二、三年頃より友人達から「エーゾ」「エーゾ」と当地方の方言で嘲笑せられ辛い思いをしていたが小学校六年生の際父母が改名の点を神戸家庭裁判所竜野支部に相談に行つたところ当用漢字で名を変え通称名で友人、知人が熟知する様になれば裁判所は許可するであろうと云われ、その時以来当用漢字にもある「博庸」(ヒロノブ)で友人にも被露し現在に於ては近隣の人、又友人達総て即時抗告人を「博庸」(ヒロノブ)で呼んでいる。

二、時ここに及んで同裁判所に改名の申立をしたところ「栄三」の名は嘲笑的であり「博庸」(ヒロノブ)で呼ばれている事は原審判も認めたが、「博庸」(ヒロノブ)は難解読との理由で却下された。

三、だが今一度飜つてその却下の理由を考えるに、当用漢字音訓表には「博庸」を「ヒロノブ」と振れぬところより只難読との見解からのみ却下がなされたものであり現に即時抗告人の知る限りに於いても出生児の命名に当用漢字であれば音訓は問はず戸籍面上記載されている。仮りに百歩を譲つて裁判所の改名は厳格に制限されるとしても、もとより社会秩序、本人の自由意志、当用漢字の訓読の難易の三面相互の関連より考慮されるべく抗告人の如く世間一般公知の事実名たる「博庸」を、そして本人自身も、最善と信ずる「博庸」を単に平易な方がよいとの観念論で却下するとは、前述の世間一般の公知の事実を無視して当用漢字音訓表のみに、重点をおくは、一般社会通念から違脱するものというべく妥当な審判とは思はれない。

四、今に至つて「博庸」(ヒロノブ)を難訓として却下することは原審判も認めた「エーゾ」「エーゾ」の嘲笑の言葉「栄三」の昔に返るか、又は「博庸」を易しい音訓「ハクヨウ」と呼んで戸籍面上の名を訂正してもらうかであるが即時抗告人としては、自分としては最善の名「博庸」(ヒロノブ)でそして世間の人も呼び習はしている「博庸」(ヒロノブ)に変更してもろう事が最善妥当と思い敢て本申立に及びます。

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